「御神木」…それは神社の神秘性を高めるもの。膨大な年数を生き抜いてきた巨大な樹木を前にすると錯覚ではなく本当に自分が小さくなったかのような感覚になる。
都心の神社、辺境の神社関係なく何百年も前から親しまれ、その社のシンボルとして堂々とそびえ立つ様は自然と背筋が伸びるものである。
そして中にはさまざまな理由で神社よりも御神木が観光名所として目立ってしまった例がある。歴史的な理由があったり天災に見舞われたりなどそれぞれ事情は異なるが、その背景も込みで調べてみた。
ちなみに筆者が独断と偏見で選ぶ神社と御神木が完璧なバランスを形成している場所は上野原市の軍刀利神社奥の院
である。
御神木のほうが存在感ある神社4選
蒲生八幡神社 (蒲生の大クス)
鹿児島県姶良市に鎮座する、1123年に豊前の宇佐八幡宮(宇佐神宮)から勧請されたという古社である。
歴史もあり佇まいも立派な神社。市民からも親しまれており存在感が薄いなどという印象は当然ない。
ただ町から神社へ近づいても目に入ってくるのは「蒲生の大クス」の文字。
そう、こちらの神社のシンボルである蒲生の大クスは環境庁の調査によって「日本一の巨樹」として認定されたのである。
幹回り24mという桁違いの大きさ、巨木として知られるかの有名な屋久島の縄文杉が約16mであることからいかに巨大かがわかる。「日本一の」という二つ名はあまりにも強すぎる。
大クスの周りには一周できる木製の歩道が整備されており、しっかり360度見ることができる。
どうやら蒲生の大クスは神社創建時には既に大木であり、御神木として扱われるなど太古の昔から存在していたようで推定樹齢は1500年を超えると言われている。
境内には他にも楠の巨木が聳えていたりする。正直なところ神社と御神木のバランスという点においてはそこまで差があるわけではないのだが「日本一の巨樹」という強い印象もあり若干無理やり選ばせていただいた。
指宿報国神社 (宮ヶ浜のアコウ)
続いてこちらも九州鹿児島。九州もそうだが鹿児島は特に楠を筆頭に巨木の宝庫である。
とりあえずまずはこの地のシンボルとなっている「宮ヶ浜のアコウ」を。
観光地感など一切存在しない荒々しい姿。こちらもアコウとしては日本一の大きさを誇る巨樹とのこと。蒲生の大クスとは違い柵などに覆われておらずしっかり近づくことができる。
続いてこちらが指宿報国神社。
明治12年創建。アコウの木の推定樹齢が300年であることからこちらも巨樹が先にあってからの創建であるようだ。西南戦争以降の戦死者の神霊を祀っており、かつては立派な社殿があったようだが台風によって全壊してしまったらしく、現在は社殿すらない状態である。
改めてアコウの木を見る。アコウは他の樹木に取りつき枯らしてしまうことから「しめころしの木」と呼ばれている。耐寒性がなく紀州南部が北限だという。
なかなかの見た目、外見だけ見ると少し怖い巨樹である。寄生植物であるがこの巨樹も長い年月を経て自らもまたさまざまな植物に寄生される立場になっているという、なにがということではないがなにかを考えさせられる佇まいであった。
山王神社 (湯島の大杉)
続いては東日本。山梨県南西部、身延町からさらに奥へ山間部を分け入った先に早川町がある。県道を進んでいくと湯島という地区があり道沿いの石段を登ると「湯島の大杉」と山王神社が鎮座する。
山王神社はそれほど大きくない、熊出没地域の森の中にたつ神社。大山咋神かと思ったら素盞鳴命(スサノオノミコト)を祀っているらしい。
湯島の大杉は境内に至る石段の途中、横道に入ったところにある。
幹回り約11m弱の巨杉。今まで見た杉の木でも一番デカいのでは?というインパクト。かつては近くに女杉がたつ夫婦杉だったそうだが、こんな巨大な杉が2本も立っていたらさぞ壮観だっただろう。
樹齢はおよそ1200年と言われている。神社の創建は不明とのことなので、どちらが先に存在していたかはわからない。ただ湯島の大杉は県指定天然記念物であり、またGooglemapでも割と広めの縮尺で表示されるのに対し山王神社はギリまで拡大しないと出てこなかったり情報が少なかったりと完全に存在感に開きがあるように思われる。とはいえ境内は整えられていたり社殿は綺麗だったので地域住民の方々に親しまれているのだと思う。
三峯神社 (本郷の大イチョウ)
千葉県市原市の人造湖・高滝湖の南側のほとりのちょっとした高台に幹回り約10mの巨大なイチョウの木が聳え立つ。
巨木の多い千葉県内でも最大級のイチョウの巨木である。
大イチョウの前には祠が並び、手前に「三峯神社」と記された鳥居がたつ。祠は三峯神社と天満神社、そして出羽三山登拝の供養碑がある。
この三峯神社は秩父の三峯神社から勧請され、獣害から農作物を守る狼を神使として崇められてきた。巨樹の前に祠がひっそりと鎮座しているパターンはよくあるのだが、しっかりとした鳥居も建てられており「御神木のための社」ではなく神社として信仰されている場所だということがわかる。
最寄りは小湊鐵道の里見駅である。小湊鐵道が出している里見駅周辺の案内マップでは社が建てられ、その際に御神木としてイチョウが植えられたと記されている。高滝湖畔には他にも高瀧神社や市原湖畔美術館など観光地としての見どころがたくさんある。
「山は逃げない」などとよくいうが、数百年生きた御神木は旅人の失火といった案外しょうもないようなことだったり自然災害などであっさり失われてしまう。なるべく見に行ける時に見にきて、向こう数百年樹木が寿命がくるまで立ち続けられるよう人の手で傷つけたりすることのないよう見守っていきたいものである。
参考・出典:蒲生八幡神社HP・指宿報国神社境内案内板・湯島の大杉案内板・山梨県神社庁HP・市原歴史博物館 三峯神社
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